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 女性の動脈硬化予防のためのマネジメント

LDLと脂肪酸:LDLはコレステロールと多価不飽和脂肪酸が主な成分
 リポ蛋白を構成するのはアポ蛋白、リン脂質、コレステロールエステル、遊離コレステロール、トリグリセリドなどであり、またリン脂質やコレステロールエステルには脂肪酸が成分として含まれている1)(図1)。脂肪酸は飽和脂肪酸(パルミチン酸やステアリン酸)と不飽和脂肪酸に、更に不飽和脂肪酸は一価(オレイン酸)と多価に分けられる。飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は体内でも生合成されるが、多価不飽和脂肪酸はn-3 系(EPAやDHA)、n-6系(リノール酸やジホモγリノレン酸、アラキドン酸)ともに生合成されないため必須脂肪酸である2)(図2)。 肝臓ではコレステロールの合成が行われ、遊離コレステロール以外にエステル化され脂肪酸と結合したコレステロールエステルがリポ蛋白の中に組み込まれ、中性脂肪をも取り込みVLDLとして血液中に排出される。その後、VLDLから中性脂肪が抜けIDL、LDLへと変化する。つまりリポ蛋白はコレステロールのみを運ぶのではなく、脂肪酸も一緒に運んでいる。となるとコレステロールエステルの主な脂肪酸とは何であろうか。 そこで閉経後LDL-C値が安定する55歳から69歳の非高血圧・非耐糖能異常の非喫煙女性(n=86例)について、血清脂質と脂肪酸の関係を調査した結果、LDL-Cはn-6系多価不飽和脂肪酸のリノール酸と正相関(p<0.001)した他、同様にn-6系のDGLA(ジホモγリノレン酸)とも正相関(p<0.05)が認められた(表2)。これまでもLDLに含まれる主要な脂肪酸はリノール酸であると報告されており、本研究でもこのことが確認された3)4)。ただし、アラキドン酸、EPAやDHAなどもリン脂質やコレステロールエステルの構成脂肪酸であることから、これらの多価不飽和脂肪酸はリポ蛋白の重要な構成成分で、LDLに含まれる割合は食生活により大きな影響を受ける5)。その結果、欧米人のLDLにはEPAやDHAが少なく、日本人のLDLにはEPAやDHAが多く含まれる。
LDL-Cと動脈硬化:LDL-C180mg/dL以上で頸動脈プラーク形成
総頸動脈の平均IMTと冠動脈疾患との関係には性差があり、男性では冠動脈疾患死は平均IMTの上昇と並行して増加する6)。しかし、女性では更年期以降にLDL-Cが上昇することや冠動脈疾患死は総頸動脈平均IMT1.0㎜以上で急増するため、冠動脈疾患は高齢者に集中する。一方、頸動脈の最大IMTについてもプラークが厚くなると冠動脈狭窄度が強くなることが分かっている7)。 一方、非高血圧男性では高LDL-Cの診断基準値LDL-C140mg/dL以上で頸動脈IMTの肥厚が見られることはあるが、女性では肥厚が見られないことが多い。当院で55歳以上の非高血圧・非耐糖能異常の非喫煙女性(n=86例)でLDL-Cと頸動脈球部最大IMTの関係を調べたところ、LDL-C179mg/dLまでは肥厚がなく、180mg/dL以上になると急激に肥厚することが分かった(図3)。日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版における「一次予防においても、LDL-Cが180mg/dL以上を持続する場合は、薬物療法を考慮する」との記載は家族性高LDL-C血症を念頭に置いたものであるが、本研究により55歳以上の非高血圧女性では高LDL-Cの診断基準値は180mg/dL以上で良い可能性が示唆された8)。米国でもスタチンの適応はLDL-C190mg/dLとなっており、LDL-C単独のリスク性は140mg/dL以上ではなく、180mg/dL以上ないしは190mg/dL以上と考えられる。
脂肪酸と動脈硬化①:n-3系のEPAやDHAは動脈硬化を抑制する
 日本人の冠動脈疾患と魚食の関係について、JPHC研究では魚の摂取が多くなると心筋梗塞が減少した9)。またn-3系多価不飽和脂肪酸であるEPAやDHAは動脈硬化に関して、プラーク形成については血中のEPAやDHAが高いと脂質コアが減少し、線維性被膜が厚くなることが報告されている10)。このことはEPAやDHAの摂取によりプラークが安定化することを示唆する。その他、人種的には米国人と比較した調査で、日本人男性は米国人男性より総頸動脈IMTが薄かったことも分っている11)。このことから日本人のLDLにはリン脂質やコレステロールエステルなどのリポ蛋白の成分としてEPAやDHAが多く含まれるため、動脈硬化度は軽度で冠動脈疾患の絶対リスクが低いという単純なシナリオが成り立つと思われる。
脂肪酸と動脈硬化②:n-6系のDGLAやリノール酸は動脈硬化を進行させる
頸動脈最大IMTとリスク因子との関係では、男女とも年齢の次に最大血圧と正相関し、総コレステロールについては男性でのみ正相関が認められた12)(表3)。当院で行った55歳以上の非耐糖能異常の非喫煙・高血圧女性(n=46例)を対象にした研究ではLDL-C 140mg/dL以上でIMTの肥厚が見られるのに対し、前述の非高血圧例ではLDL-C180mg/dL以上でプラークの形成が急増した。したがって、脂質異常のみのリスク性、即ち“LDL-C値がいくら以上あったら動脈硬化が進行するのか?”の疑問に答えるには、少なくとも非高血圧例のみで評価する必要があると考えられる。一方、高血圧などの多重リスクがあれば、より低いLDL-C値でも動脈硬化は進行しやすい。 そこで55歳以上の非高血圧・非耐糖能異常の非喫煙女性(n=86例)で頸動脈IMTと年齢、血糖、血清脂質、脂肪酸、血圧値などのリスク因子との関係をステップワイズ法による重回帰分析により検討したところ、総頸動脈最大IMTではDGLA(ジホモγリノレン酸)と正相関が見られ、頸動脈球部最大IMTではリノール酸と正相関が認められた(表4a, 表4b)。即ち、LDL-Cと頸動脈球部最大IMTの関係では、LDL-C180mg/dL以上になると急激に肥厚することが分かったが、リノール酸と頸動脈球部最大IMT との間にはほぼ直線的な関係が認められたため、より強固な正相関が生まれたのである(図4)。つまり、LDL-C以上にn-6系のDGLAやリノール酸がリスクであることが証明されたのである。 ところで、豪州の疫学調査でリノール酸の摂取を指導したところ冠動脈疾患が増加したと報告されている13)。その中で酸化LDLの主体となるのはリノール酸の酸化産物であるとされている。その背景に、リノール酸はEPAやDHAに比べ酸化しやすいことがある14)。結局、本当の悪玉はリノール酸なのである。 以上より、非高血圧女性ではLDL-C値が高くてもリノール酸が低ければ頸動脈球部の動脈硬化は進まないと考えられる。
薬物療法と脂肪酸:スタチンはリノール酸、オメガ3はDGLAを低下させる
 動脈硬化を抑制するには単にLDL-C値を下げるだけでなく、DGLAやリノール酸などのn-6系の多価不飽和脂肪酸を低下させる必要がある。 そこでLDL-C 値が高い女性40例(平均LDL-C=185mg/dL)にストロングスタチン(多くはピタバスタチン)を投与したところ、総コレステロール、LDL-C、中性脂肪などの血清脂質はもちろんリノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、EPAやDHAなどの脂肪酸をも低下させた(図5)。具体的にはLDL-Cは185 mg/dLから118 mg/dLへ、リノール酸は1094μg/mLから875μg/mLへ低下した。一方、オメガ3酢酸エチルを女性12例に投与したところ、中性脂肪の低下とEPAの上昇、DGLA、アラキドン酸やオレイン酸を低下させた。具体的には中性脂肪は127 mg/dLから101 mg/dLへ、オレイン酸は762μg/mLから655μg/mLへ低下し、DGLAは39μg/mLから27μg/mLへ低下した(図6)。即ち、頸動脈球部のプラーク形成に関係するリノール酸をスタチンは低下させ、総頸動脈IMTを肥厚させるDGLAをオメガ3酢酸エチルが低下させることから、両薬剤には脂肪酸の面からも抗動脈硬化作用があることが示唆された。 日本人にEPAを投与したJELIS研究では、プラバスタチンなどのスタンダードスタチンにEPAを上乗せしなかった対照群ではリノール酸のみが主要冠動脈イベントのハザード比を高めたことが報告されている15)。このことはスタンダードスタチンではリノール酸の低下が不十分であることが要因と考えられる。つまり、LDL-Cの不十分な低下はリノール酸の不十分な低下を意味するのである。 以上より、LDL低下作用とリノール酸低下作用は表裏一体の関係にあると考えられる。
食事療法と脂肪酸:肉や油脂の制限、即ちリノール酸の制限でLDL-Cは低下する
当院では過去1か月間の食習慣(栄養摂取量や主な食品の摂取量)を調べるための質問票であるBDHQを活用し、結果を基に食事指導を行っている。以下、LDL-Cが低下した2例を紹介する。ただし、ここで表2に示されているようにLDL-Cはリノール酸やDGLAと正相関、中性脂肪はオレイン酸と正相関することに注目していただきたい。 まず1例目は56歳女性に肉や油脂を制限し、魚の摂取増を指導したところ、1年2か月後、コレステロール摂取は魚中心に増加、LDL-C は210mg/dLから163mg/dLに低下し、中性脂肪は89 mg/dLから131 mg/dLへ上昇した(表5a)。EPAは96.9μg/mLから253.3μg/mLへ、DHAは195.7μg/mLから227.6μg/mLへ上昇したのに対し、LDL-Cと関係の深いリノール酸は1248.3μg/mLから1060.7μg/mLへ、DGLAは47.3μg/mLから27.3μg/mLへ低下した。しかし、中性脂肪と関係の深いオレイン酸は749.0μg/mL から809.3μg/mLへとやや増加した(表5b)。尚、この方の場合、飲酒の習慣があり中性脂肪の上昇に影響した可能性がある。 次に2例目は58歳女性に肉や油脂の制限したところ、1年7か月後のコレステロール摂取は卵中心に増加、LDL-C は182 mg/dLから13 2 mg/dLに低下し、中性脂肪も185 mg/dLから98 mg/dLに低下した(表6a)。EPAは63.4μg/mLから84.3μg/mLへ、DHAは230.2μg/mLから247.7μg/mLへ上昇したのに対し、やはりここでもLDL-Cと関係の深いリノール酸は1137.1μg/mLから737.5μg/mLへ、DGLAは51.0μg/mLから33.1μg/mLへ低下し、中性脂肪と関係の深いオレイン酸も839.9μg/mL から586.5μg/mLへと低下した(表6b)。この場合、EPAは摂取が減少したはずなのにやや高くなったのは必須脂肪酸の代謝過程で働く酵素はn-3系、n-6系共に同じであるため、お互い拮抗することによると考えられる。つまり、EPAの大量投与でリノール酸は低下、リノール酸大量投与でEPAは低下する関係にある。したがって、魚でも揚げ魚にはリノール酸が大量に含まれており、EPA濃度は上昇しない。具体的には、英国料理のフィッシュアンドチップスは有名だが、一方で虚血性心疾患が多い要因の一つと考えられる。 以上より、魚や卵によりコレステロールの摂取が増加しても、肉や油脂の制限によりリノール酸が低下すればLDL-C は低下すると考えられる。
食事療法:コレステロール0の罠
市販の植物油は“コレステロール0”をうたい文句に業績を伸ばしてきた。元々バターなどの動物性脂肪と違い、植物油にコレステロールは入っていない。ところが、植物油はコレステロールエステルの主な脂肪酸であるリノール酸を多く含んでいる(表7a)。特にひまわり油や大豆油、ごま油には多量のリノール酸が含まれ、一方ではn-3系のαリノレン酸も含まれており、魚を食べない米国人には貴重なn-3系の摂取源となっている。 最近では健康に良い油としてオリーブ油やココナッツ油がマスコミに取り上げられる。その共通の特長はリノール酸が少ない点である。結局、コレステロール0が重要ではなく、リノール酸が多いかどうかが重要なのである。また植物油に水素添加してできたマーガリンは、リノール酸が多いだけでなく動脈硬化を起こし易いされるトランス脂肪酸も多く、ソフトタイプには100g当たり13.0g以上、ハードタイプには14.7g以上、高リノール酸タイプには8.0g以上含まれている(医師薬出版:日本食品成分表)。女性の場合、菓子と果物を多く摂取するため、菓子に含まれるマーガリンはLDL-Cを上げる大きな要因になる。また和菓子でも、かりんとうや米菓・揚げせんべいには洋菓子以上にリノール酸が含まれている(表7b)。当院でも高齢者のLDL-C上昇の要因が“かりんとう”の摂取によるものではと考えられる症例を経験した。一方、若い方ならコンビニのパンにも注意が必要で、大抵マーガリンが含まれている。いずれにしてもコレステロール摂取に気を取られ卵を制限するのは今どきピント外れの対策で、それよりリノール酸の制限に注意を払うべきである。即ち、パンや菓子を買う際には裏面の成分表示をチェックし、更に、お土産で買う菓子はもらった方の健康を考えて購入しての欲しい。
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